100301 銀座テアトル・シネマ
原題:CARAVAGGIO 伊仏西独合作 133分(長い!)
監督:アンジェロ・ロンゴーニ、撮影:ヴィットーリオ・ストラーロ
(「ラスト・エンペラー」「地獄の黙示録」「ゴヤ」)
出演:アンジェロ・ボーニ(「輝ける青春」)

彼の正式の名前はMichelangelo Merisiだが、
余りにも偉大なMichelangero Buonarotiと区別する意味もあり、
出身地であるCaravaggio(ミラノから40km北西)と後世呼ばれるようになった。
これはダ・ヴィンチと同じ理屈。
ただし、カラバッジョが長いので敢えてダはつけない。
家族、友人からは幼名のミケーレが通称。
さて、そのミケーレ、有り余る才能を持てあまし気味。
一見粗暴に見えるが、実は極めて繊細な神経の持ち主。
天才と狂気の危ういバランスの上での人生が
見るものを最後までハラハラさせる。
自分の才能にどこまで気づいていたのだろうか。
絵の才能以外、ろくに生計の立て方すら分からない,
と言うより、そんなことはどうでもいいミケーレ、
何とその日暮らしの身の上。
一方で、彼の芸術性を高く評価する者が現われる。
コロンナ侯爵夫人もその一人で、よき理解者。
そしてある有力な枢機卿が彼に具体的生活支援を申し出て、
やっと人並みの生活が出来るようになったのだが・・・。

ストラーロの撮影も、絵画同様、鋭く陰影を意識しているのが分かる。
聖女を描くためのモデルに、好みの売春婦を使ったことがばれて大騒ぎ。
ひょんなことで、殺人を犯し、ローマから逃亡、マルタ騎士団に匿われたり、
シチリアのシラクーサの友人を頼ったりの逃避行の果てに待っている運命やいかに。
映画は彼が死ぬであろうことを暗示する形でジ・エンド。
(実際は、ローマから北西150kmほどの漁村ポルト・エルコレで、
熱病、多分マラリアで没した。享年39。)
短い人生とは言え、まことに波乱万丈。
2時間超の作品でも、かなり端折らざるを得なかったようで、
その為、「??!」という場面も少なからず。
例えば支援者の一人であるコロンナ夫人が何故天才画家とは言え
ならず者風情に近付いたのかなど、疑問が残った。
(後で調べたら、オリジナルは何と180分。それを50分もカットしたのだから、
↑の疑問もむべなるかな。)
☆
流転の人生ゆえ、遺された作品もごく少数。(フェルメールほどではないが)
しかも、それぞれがあちこちに点在するから、
彼の作品を集中的に見るのは厄介だ。
その意味でカラバッジョ展というのは極めて貴重。
光と影を徹底追求した点では、多分世界で最初の画家なのか。
また、古い秩序に反発し、それまでの技巧のみに収斂したマニエリズムを打破したともされている。
彼の影響を受けた後世の画家では、ルーベンス、レンブラント、ハルス、
フェルメール、ベラスケス、ジョルジュ・ラ・トゥール、ベルニーニ(彫刻)・・・
★
制作方もユニークで、それまで、特にローマではデッサンを起こしてからというのが一般的だが、
彼はモデルを見ながら、いきなりカンバスに筆を走らせるという手法で、
これもまた周囲の画家仲間とはかなりの軋轢を生んだらしい。
聖書の場面を多く描いているが、描かれたテーマと見る者との空間を破壊し、
距離を縮めたとも言われる。
見る側、見られる側の一体感を目指したのかも知れない。
☆
映画に登場するコロンナ侯爵夫人ことコスタンツァ・コロンナ、16歳も年上で、
しかもカラバッジョがホモであることで、恋愛には発展しなかった筈だが、
闘病中のカラバッジョにキスするシーンが出てくる。
同じコロンナで、思い出すのはミケランジェロを励まし続けた女性もコロンナだった。
こちらはヴィットリアで、時代が違うから勿論別人で、しかも縁戚でもなったようだ。
そう言えばブオナローティの方もホモ。妙なところで共通する。
☆★
劇中、絵画論が展開されるシーンも興味深い。そこにはヤン・ブリューゲル(ピーターの長男)
も登場する。デューラーの感想を求められたりもしている。
「聖マタイの召命」光のマジック。
光の当たる右手はミケランジェロの真似だろうとからかわれて、
「いや、彼へのオマージュだ!」と言い返す場面がある。


「ホロフェルネスの首を刎ねるユーディット」
左はカラバッジョ、右はその影響を受けた女流画家アルテミジア・ジェンティレスキの作品。
こうした場面を描くため、公開処刑の斬首*など実際検分していたし、腐臭を放つ死体を凝視したり、また哲学者ジョルダーノ・ブルーノ火刑場面にも立ち会っている。
(*サンタンジェロ城前の橋に組まれた特設処刑台で、実父殺人のかどで義母らと斬首されたベアトリーチェ・チェンチ)
今回もばあさんばかりで超満員。
毎月1日は映画デーで誰でも千円と分かっていたので、百円余計に払って、事前予約。
1階入口付近では「1時の回は売り切れでーす!」と案内係。
待っている間、隅で軽食をつまんでいた老婦人。
どちらからともなく会話が。聞くともなしに聞いていると
「カラバッジョって、こんなに人気あるんですかねー?もっと空いているかと思ったのに」
「今は、みなさん良く旅行もなさるし、色んな事にご興味が出てくるんじゃないんですか」
「私は美術史専攻でしたから、カラバッジョだけを見に、この間旅行してきたばかりなの。」
やはり、カラバッジョは自分だけ、と思いたい口ぶり。
#9(画像はALLCINEMA on lineから拝借)